なので、今年のクリスマスは、西中島にあるパティスリー・ジョナでケーキを買うことにした。
ビゴさんは、「私の店では腕時計を好きな者は採用しない」という言葉で僕に影響を与えた人物だ。
その言葉の真意は──腕時計で分かる規則正しい時間は、酵母を扱う人間には逆に信頼できないもの。気候や天候に応じて時間の尺度を自在に調整できることこそ、発酵に携わる人間にとって必要な資質。発酵に必要な時間は五感を頼りに導き出せるよう修行すべし──ということだった。
上記のエピソードを知ったのがいつかはもう記憶にないが、自分が針灸師を目指し始めて以降、自分にとっての腕時計が何なのかは時々振り返るようにしてきた。
その結果として、まず、どんなにつらくて心細かった時でも、病院へは行かないようにした。
もちろん、服薬もしない。
最近は漢方薬も含めて飲まないようにしたし、サプリメントは飲んだことがない。
添加物を避けたり運動したりといった無条件で体に良いとされることも、全般的に、なるべくサボるようにしている。
自分が食べたがっているものを食べ、寝たがっている時に寝、生きやすいように生きる。
ここでの「自分」には、本能や思考といった「自分の断片」だけでなく、「ありとあらゆる自分」を含めるようにしているので、気が向きさえすれば、関西人として恵方巻を食べてみたりする。現代日本の一亭主としてクリスマスケーキを予約してみたりもする。
唯一、自分に強制するのは、針灸だけ。
患者さんたちの生活様式から不自然に遠ざからないようにしながら、針灸のみで自分の健康を維持かつ増進し続ける。
当面の僕にとっては、それが腕時計を外すことであり、腕時計を外した上で取り組むべき修行のつもりだ。



